TAKUMI IMPERIAL

鋼の哲学者が鍛える、
究極の美剣

茨城県

宮下 正吉

MIYASITA MASAYOSHI

宮下 正吉 宮下 正吉
宮下 正吉

守り続けられた伝統を大胆に革新し、新たな美の境地へと昇華させる刀匠がいる。
日本刀に理工学的アプローチを融合させ、鋼という素材に哲学と未来を刻む男──それが宮下正吉である。

MIYASITA MASAYOSHI
work of art

Profile

2007年に群馬大学工学部電気電子学科を卒業後、宮入法廣師に弟子入りし鍛刀の道へ進む。
基礎から作刀技術を学び、2013年に新作刀展へ初出品。
2015年に茨城県つくば市で「筑波鍛刀場」を開業した。

工房は東京からのアクセスも良く、地元の愛好家や見学者が訪れる場として知られる。
工学的な思考と伝統技術を組み合わせ、精密さと精神性を調和させた作刀に取り組んでいる。

理と美を両立させる刀づくりを追求し、現代に生きる日本刀の新たな姿を提示している。

工学が拓いた、美の地平

工学が拓いた、美の地平

1984年、奈良県に生まれ、茨城県つくば市で育った正吉は、群馬大学工学部で電気電子学を学んだ後、刀匠の道へと転身した。人間国宝・大隈俊平の刀に触れたとき、鉄が放つ美の奥深さに心を撃たれたという。長野県の名匠・宮入法廣のもとで7年にわたる修行を積み、2014年に独立。鍛冶場を構えたのは、科学と自然が共存するつくばの山あい──その静謐な土地が、正吉の思索と創作を支えている。

歩み始めた実績と広がる注目

歩み始めた実績と広がる注目

2013年、新作名刀展に初出品した短刀が新人賞と努力賞を同時に受賞。以降も着実に経験を積みながら、自身のスタイルを深化させている。若手刀匠としては異例の関心を国内外から集めており、現代美術的な視点でも評価されはじめている。その一振りには、次世代を担う作り手としての可能性と、未踏の美が宿っている。

感性を鍛える、日常という鍛錬

感性を鍛える、日常という鍛錬

優れた刃を鍛えるには、優れた眼と心が要る。正吉は日々の暮らしのなかで、意識的に感性を磨いている。旬の食材を味わい、各地の自然や建築を巡り、古典から現代まであらゆる分野の書物を読む。そうして蓄積された美意識や思想は、刀の造形や質感に微細な影響を与え、無意識のうちに作品の気配として立ち上がる。

伝統という設計図を、再構築する

伝統という設計図を、再構築する

正吉にとって「伝統」は守るものではなく、読み解くものだ。刀剣が築いてきた美意識や形式を一度解体し、自らの理論と審美観でもう一度組み上げる。その過程に、先端の材料知識や精密加工の知見が加わることで、彼の刀は従来の文脈を超えた存在となる。あくまで古典に敬意を払いながらも、技術と思想を往還しながら、新しいかたちを模索する──そこに彼の真骨頂がある

静かなる存在感、品格ある逸品

静かなる存在感、品格ある逸品

正吉の刀は、鎌倉期の備前伝を思わせる丁子乱れ、または凜とした直刃に、精密な技術と静謐な美が共存する。地鉄の深い輝きと「匂(におい)」の煌めきは、彫刻のように見る者を惹きつける。華やかさよりも、研ぎ澄まされた沈黙。その佇まいは、真の価値を見極める者の感性と精神性を静かに映し出す。古来より信仰を集める山々に抱かれたつくばの地で生まれる一振りは、静かにして力強い、美の証明である。