異国の地で夢を鍛つ
広島県
JOHAN LEUTWILER
スイスの静かな山あいに生まれた少年が、遥か東洋の秘された芸術に心を奪われた。
選んだのは、安全な道ではなく、自らの肉体と精神を極限まで鍛える鍛刀の世界。
異国の地で火に向かい、鋼と語り、ただ一振りの刀にすべてを注ぐ。
日本刀に魅せられた男のあくなき挑戦は、国境も常識も超えて、美の未来を切り拓いている。
スイス・ヴァレー州モンテー出身。幼い頃から金属加工に親しみ、17歳のときに展示会で見た日本刀に影響を受け鍛刀を志す。
2017年に来日し、広島県庄原市「善博日本刀鍛錬道場」で久保善博師のもと5年間修業した。
2024年、外国出身者として初めて日本文化庁より作刀許可を取得した。
庄原市の鍛錬施設と三原市久井町の私設工房の二拠点で作刀を行い、伝統技法の習得と安定した作刀に取り組んでいる。
異文化で育まれた感性を活かしながら、日本刀文化を学び伝える活動にも取り組んでいる。
イス南部ヴァレー州モンテー。雪に包まれた町で育ったジョハンは、幼い頃から兄が働く鉄工所に通い、金属の音、炎の匂い、鋼の重みに心を惹かれていった。14歳で鉄工の見習いとなり、金属加工の世界に足を踏み入れる。そして17歳、展示会で偶然目にした一振りの日本刀に衝撃を受ける。
「この刀を作りたい」──その直感が、少年の未来を決定づけた。
2017年、28歳のとき、人生を賭けて単身日本へ。目指したのは広島県庄原市、「善博日本刀鍛錬道場」。名匠・久保善博のもとで、異文化に身を投じながら5年間にわたり鍛刀の基礎から徹底的に学ぶ。毎日が試練。火床の前に立ち、鉄を打ち、手を焼き、声を飲み込みながら技を吸収していく。語学の壁すら、鉄と向き合う沈黙の時間の中で自然に溶けていった。
日本刀とは何か──その答えを、彼は体で掴み取っていく。
2024年、日本の文化庁より作刀許可を取得。外国人として史上初の認可を受けたジョハン・ロイトヴィラーは、伝統に挑みながらも決して驕ることなく、今なお学び手としての姿勢を崩さない。
彼が求めるのは技術の完成だけではない。日本刀に宿る精神性や哲学、美意識の本質を深く理解し、自らの刃に昇華させること。それこそが、彼の揺るがぬ信念だ。
現在は、庄原市の国営備北丘陵公園内にある鍛錬施設を火床としつつ、三原市久井町に構えた私設工房「仕上げ場」との二拠点で作刀を続けている。
鍛える場はひとつでも、思索と表現の幅は広がり続ける。自然の静けさに包まれたその空間で、鋼と語り合う時間こそが、彼の刀に深い呼吸を与えている。
ジョハンの刀は、伝統技法と異文化の美意識が融合した、新時代の象徴である。静謐の中に凛とした強さを宿し、語りかけるような佇まいは、まさに鋼の詩。芸術性と精神性を兼ね備えたその一振りは、持ち主の哲学や審美眼を静かに映し出す鏡となる。異国のサムライとして火床に立ち続ける彼は、世界に日本刀の真の美と魂を伝える伝道師となる。